この物語は
南家三姉妹の平凡な日常を淡々と描く物です
過度な期待はしないでください
あと
部屋は明るくして
テレビから三メートルは離れて見やがってください
今朝もいいお天気
あ いけない
春香姉さま おはようございます
おはよう 千秋
なにか手伝います
そうね じゃ ニンジンの皮むきをお願い
はい
ん
おはよう
今日は日曜日 一週間でもっとも自由な一日
その自由を確認するために
まずは 二度寝だ
二度寝 二度寝 ....
おやすみ
それだけ もっとかまってくれてもいいんじゃない
髪を結んだのにとか
なんか手伝えとか
なら 夏奈はじゃが芋お願い
ラジャー
もうおやすみ
ひどい
ただいま
ん
おかえり
っていうか あれだな
おまえははやく帰ってわたしの遊び相手をするべきだ
わたしを持て成し
わたしを崇め
わたしを喜ばせることこそ
わたしの妹としてのおまえのありかただろう
だというのに
こんな時間までどこほっつき歩いてた この野郎
勝手な理屈を並べ立て上 この野郎か この野郎
これはもうあれだな
宿題をしよう
ごめんなさい 遊んでください
暇なんです わたし
ん 暇っておまえ
晩御飯の準備があるだろう
え
今日は帰り遅くなるから 晩御飯お願いね
って 春香姉さま言ってただろう
じゃな
手伝って千秋さま
宿題を片付けたい
わたしの料理の腕を知ってるだろう
今わたしを見放したらどうなるか
宿題を終えて
いい感じに空腹のおまえをかつてない一皿が襲うぞ
なんならおかわりもあるぞ
全部飲み込んでもらうよ
だから手伝って
よし じゃ何を作ろう
は まずは冷蔵庫のチェックだ
はいはい
見事に何もないな
シェフは機嫌をそこねた
こんな材料で料理はできん
料理に必要なのは腕だ
愛情といい食材がそれに続く
しかし おまえは腕はおろか愛情もゼロ
食材でごまかすのも不可能ときたら
エゴのかたまりの生ごみになることうけあいだな
どこ行くの
出前をお願いする
晩飯はわたしが作る
他者の介入は認めん
夏奈 ムキになるな
電話一本で食卓に笑顔が戻るんだぞ
ここで引き下がっちゃ
姉としての立場がないでしょう
それについてはいまさら心配するな
思うに晩御飯のイメージに縛られすぎたのだ
世間の常識に合わせることなく
簡単確実においしいもの
あ というわけで
ホットケーキを焼こう
お いい
それ いいよ
でかしたよ 夏奈
そうでしょうとも
あんたホットケーキ好きでしょう
どんなばかでもそれなりに焼けるし
おまえからキツネ色に焼いてやる
ねー 千秋
ん
フルーツを入れよう
ん
ヨーグルトもいいな
あ ジュースも入れよう
ちょっ 待て
素人の浅知恵は危険すぎる
ホットケーキはこれがもっとも完成された形
平気平気 甘いから相性はいいって
さあ 焼くぞ
か 固まらない
当然だ 生地がゆるい
粉は
もうない
まぁその
クリームシチューってことで
ただいま
遅くなってごめんね
ん
ほら 飲んでごらん クリームシチュー
ほら おかわりもあるから クリームシチュー
ごめんなさい
先生なんて嫌い
待って二宮君
放して放して先生
先生は二宮君に嘘ついていた もう世間なんてどうでもいい
好きだ 二宮君
先生
恒例のフンドシ祭りが開催され
今年も多くの観光客で賑わいました
では次のニュースです
春香姉さま
今男性教諭と女子生徒がキスを
千秋 学校は楽しかった
あ はい
さっきのはちょっと反応が過敏すぎやしないか
それは千秋もちゃんとした知識を持ったほうがいいと思うけど
咄嗟になんて説明したらいいか わかんなくなって
よーし ならば わたしが姉として
キスとはどういうものか 教えてやろう
あまり変なこと教えないでよ
夏奈 さっき男性教諭と女子生徒がキスを
そうだね
で そのことだが
あんなものゴールデンに放送したらお茶の間が気まずいだろう
あ まぁ
家族で一緒に見るもんじゃないよね
じゃ 千秋
なぜ気まずくなるか説明できるかい
説明ってそりゃ
キスしてるからいけないんだろう
ならキミはキスのどこがいけないって言うんだい
なに怒っているんだ
キスしたことないやつがキスを否定するんじゃないよ
おまえはしたことあるのか
ないよ
してみるか
い いやだよ
いやだって言ってるだろう
姉妹ではないか
なにを恥ずかしがることがある
やかましい
姉妹でもやっていいこととわるいことがあるのがわからないのか
この馬鹿野郎
待て
やめろ
なにをしてるの
本気で嫌がる妹とキスを
は 春香姉さま
嫌がってるならやめなさいよ
おまえ 春香とならキスできるじゃないのか
そうだな
春香なら経験済みだろうし
ちゃんと教えてくれるはずだ
エー
さあ 二人ともくうっと
おい 夏奈 起きろ
起きないと遅刻するぞ
春香姉さまの命令だ
起きろ
夏奈起きた
なにしてるの
女将かシェフはまだか
こら 馬鹿野郎
女将か
なにが女将だ
さっきから遅刻をすると言っているのがわからないのか
おまえの言い分が理解した
しかし朝ご飯を食べないと体に悪いじゃないか
ならわたしと春香姉さまは安泰だ
なっ 自分たちだけよければいいのか
おまえだけが悪い分には特に気にならない
なんという妹だ
だが春香は違うよな
これなら学校に行きながらでも食べられるわ
足りない
じゃ 明日は早起きしましょうね
愛も足りない
あぁ おまえは本当にあさはかだな
なんだと
このままだだをこねていても遅刻するばかりで誰も幸せにはなれない
だが学校に行けば
行けば
行けばどうになる
この心と体の上が乱されるとでもいうのか
無論だ
学校には昼食と確実に約束された食料源があるだろう
では諸君
急がないと遅刻するぞ
そーりゃーーー
起立 礼
どうしたの 夏奈
朝から元気ないみたいだけど
珍しく
ケイコ わたしはね
今日という今日こそ
自分を馬鹿だと思った日はないよ
千秋にこうも見事に踊らされるなんてね
な なにがあったの
昼食ってさ
お昼にならなきゃ出ないよね
それがなにか
わたしはそんなあたりまえの反応を期待してるんじゃない
いいか 恵子
おまえの目の前に今
親友が空腹で倒れているんだぞ
助けてやろうとは思わぬか
どうすればいいの
今すぐ昼食をここに
そんなこと言われても
まだ一時間目が終わったばかりだし
千秋の手先め
え
わたしにどうしろと
そもそも千秋ちゃんとわたしはなにも関係ないし
あぁ 腹減ったな
おお
大変だ
大変なんだ
どいて
どうしたオオカミ少年
本当にたいへんなんだ
わたしの靴箱にこんなものが
これはラブレターか
いやん 「ウ」にてんてんとかつけて ラヴっていうな
最初からこの状態で
いや それはわたしが手に汗にぎって握りつぶした
へえ 夏奈もラブレターをもらう年頃になったのね
春香姉さま 年頃はあまり関係ありません
読んでいいのか
よ 読むとき声出すなよ
急な手紙で驚かせてごめん
南と出会ってから南のことをいつも目で追っていることに
気付きました
活発で元気な南が気になっています
もしよければ
教室で誰もいなくなってから
ゆっくり話をしてみたいです
うわ
なんて恥ずかしいやつだ
おい 声出したか
感情たっぷり視聴者にお届けか
藤岡君からのラブレターでした
おまえラブ禁止
藤岡君てどんな人なの
え
ああ 同じクラスのやつ
確かサッカー部でレギュラーで
女子にも結構人気あるって話だったような
そうかそうか
やつを連れてたら自慢できるかもな
ブランド物感覚とはいいご身分だ
うらやましいか 千秋
は
うらやましいだろう このモテる姉が
人気ものを連れて歩ける この姉が
おりろ
おりなさい
調子に乗るのはいいが
この手紙には不審な点が多いぞ
え 何が
女に不自由のない男が
なぜわざわざおまえにラブレターを送る必要がある
異議アリ
気になるのは活発で元気な南 この部分だ
そのまま夏奈のことじゃないの
うん それだけが取り柄さ
威張ることじゃないのよ
そう それが原因かもしれない
なに
この一文
これは おまえ目だってんだよ と解読できる
そしてここ 教室でだれもいなくなってから は
たぶん 邪魔者がいないリング を示す
邪魔者がいないリング
それですべての暗号を解くと
つまり こういう手紙になる
果たし状
最近おまえ目立ってんじゃねぇ
目障りなんだよ
邪魔が入らないところで
拳で語り合おうぜ
球蹴り番長 藤岡
ただ口べたな子なんじゃない
ゆるさん
わたしのなけなしの乙女心を踏み躙りおって
落ち着け 夏奈
相手は足技のスペシャリスト
正攻法では勝てない
で ではどうしろと 千秋さま
さま
案じるな 姉よ
わたしが秘策を伝授してやろう
み みなみ
あ あのさ お おれ
いててて
な なんで
おまえの軸足は死んだ
よっておまえの黄金の右は死んだも当然
わたしを弄んだこと
後悔するがいい
え
ただいま
おかえり
どうだ 面白かったか
テレビの前のおまえら
だれに対しても容赦ないの おまえ
次回 おかしな学校
観たければまたみてもいいぞ
無敵すぎるぞおまえ